日本一の歓楽街、新宿・歌舞伎町。コロナ禍でも、感染源である”夜の街”として名指しされるなど、目の敵にされることが多かった。欲望・エロス・犯罪の都は、いかに生まれ、どこに向かうのか。
何段階もの「射精産業」
セックスとセックス周りの商売が歌舞伎町の代表的な産業であることははっきりしている。夜、男が通りを歩けば、日本人や外国人の街娼、あるいはポン引きなどが近寄り、「遊ばない?」「もう一軒どうです?」などと声を掛けてくる。性風俗店の前ではしきりに呼び込みの男女が通行人に店に入るよう声を張り上げ、袖を引き、チラシを押しつける。街角には飲食店や風俗店を紹介する案内所もある。
セックスという言葉は、男女の性交の意味で使われるのだろうが、客が男の場合にはより直接的に「射精産業」というべきかもしれない。性交(ホンバン)を頂点とするピラミッドがあるとして、歌舞伎町では性交の手前の射精や催淫的なムード、予備行為なども売り物になり、射精産業には何段階もの亜種的な業種がある。
女性との性的会話を楽しむ、あるいは口説く(キャバクラやクラブなど)、若い女性の陰部やオナニー姿などを見せる(覗き部屋、ノーパンしゃぶしゃぶなど)、女性の乳や陰部を触らせる(ノーパンクラブやお触りバー)、女性の手指などで射精をもたらす(ピンクサロンやセクキャバなど)、同じく女性の手や体を使ったマッサージで射精させる(エステなど)、女性をホテルに連れ出せる(台湾クラブや中国クラブ)、ホテルに女性が来る(デリヘルなど)、客の女性と直接交渉できる(出会い喫茶、ハプニング・バーなど)、女性とセックスできる(ソープランド、街娼)など――歌舞伎町は性的な各種サービスに溢れている街である。
セックス補助産業ともいうべき裏DVDや裏ビデオ店、大人の玩具・強精薬店、セックスの場所を提供するラブホテルやレンタルルームも歌舞伎町には少なくない。
また男に対する性的サービスだけでなく、女に対してもホストクラブやボーイズバーが数多く開業している。ホモセクシュアルな男女に対してはゲイバーやゲイクラブ、レズバーなどがあり、男女のどのような性向にも応えるウリ専バーさえ用意されている。
不気味さあっての歓楽街
歌舞伎町は性的に様々な欲求や嗜好を満たす街といっていい。客に歓楽を約束する意味で歓楽街というのだろうが、歓楽街は肯定的な意味合いだけを含んでいるのではない。訪客の多くは楽しさや嬉しさだけでなく、街の底に暗さや不気味さ、怖さなどが淀んでいると感じていよう。逆にいえば、暗さや怖さが含まれているからこそ歓楽街ともいえる。
街で流通している99%が商業的なセックスであること、女の裏に男の暴力が存在することは訪客のほとんどがうすうす察していることにちがいない。
戦後、とりわけ女性の性意識は様変わりした。戦前や戦後間もなくのように、親の貧困や急場の危機の犠牲で仕方なく身売りされることを受け入れる女性は少なくなった。逆に女性として経済的に最も効率がいい仕事として、ルンルン気分で体を売る、色気を売る女性も増えたことだろう。ブランドもののバッグや服を買うために、あるいは海外旅行やプチ整形を行うために、援助交際や売春、男の遊び友達と組んだ美人局(つつもたせ)、恐喝、女子高生売春どころか中学生売春など、女性の性意識や倫理の乱れを語る風俗は歌舞伎町を舞台にしても行われている。
売買春が倫理的にどうかということはここでは問わない。男の客にとって、カネさえ出せば、若い女とも年増の女性とも、痩せた女性とも太った女性とも、日本人とも外国人とも、性交できるという現実は便利なことだろう。売り手の女性にとっても、自分の体を男に自由にさせることだけでカネになるという現実はそこそこコンビニエントなはずである。
だが、売買春は局部への接触権や射精権を売った買ったという商取引だけで完結する問題ではない。単なる経済行為ではすまず、すまないからこそ歓楽街という舞台、仕掛けがあるともいえよう。
1956年5月に売春防止法が公布された。以来、婦人相談員として30年間新宿で性を売る女たちを見てきた兼松左知子はその著『閉じられた履歴書―新宿・性を売る女たちの30年』(朝日文庫)の中で、ベテランの娼婦から次のように言われたと記している。
〈いっとくけどね、売春なんて……兼松さんたちが考えているような、そんな、なまやさしいもんじゃない。売春するってことは、自分で自分をつぶすことよ〉
ほとんどの場合、男が売春の客である以上、分からない、あるいは分かろうとしない淵が売春する女性たちとの間には存在する。その淵を客の目から隠しているのが歓楽街、歌舞伎町である。
ヤクザ、暴力団組員の多くは女のヒモとしてヤクザ生活を始める。どのような大親分であっても、女に養われた一時期を持つと、現役の組幹部から聞いたことがある。ヒモはヤクザ道の基本なのだ。ヤクザが服役すれば、シャバに残された自分自身と子供を養うのは妻か愛人かであり、彼女たちが収入を得る場所が飲食店か風俗店しかないことは見やすい事実である。
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https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20201012-00040711-bunshun-soci
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